公衆無線 LAN サービスを一通り見てきましたが、同じ東京メトロの駅構内に、仲良く NTT 系公衆無線 LAN サービス 2-3社が同時にサービスしていることがあります。それ以外にも、タリーズコーヒーなど、設置場所には共通点が多いようです。アクセスポイントも 3セットずつ設置してあるのでしょうか。

入口は同じでも共通エリアは NTT-BP が運用している

実は、HOTSPOT、Mzone、フレッツ・スポットの 3つに関しては、NTT-BP (NTT ブロードバンドプラットフォーム) という会社が公衆無線 LAN アクセスポイントを一括して運用しています。

NTT-BP はもともとは NTT 東日本 100% 出資の子会社で、「無線 LAN 倶楽部」という名前のサービスを提供していましたが、2005年12月に同サービスを終了し、NTT コミュニケーションズの HOTSPOT、NTT ドコモの Mzone から一部のアクセスポイントを譲り受け、共通アクセスポイントの運用を引き受けるようになりました。出資比率も、現在は NTT 東日本 34%、ほか NTT 西日本と NTT ドコモと NTT コミュニケーションズで仲良く 22% ずつという形になっています。

でも、サービス自体を完全に統合してしまったわけではなく、アクセスポイントに必要なハードウェアは 1台ですが、マルチ SSID、マルチ Radius ((マルチ Radius というのはあまり聞きませんが、たぶんアカウントデータベースをプロバイダごとに分けてあるんでしょうね。)) 、VLAN といった技術を使い、見かけ上別々のサービスに見えるようになっています。

なお SSID は無線アクセスポイントの識別子 (名前) です。公衆無線 LAN サービスでは、HOTSPOT、Mzone などサービス事業者ごとに固有の名前をつけていて、他の事業者や、サービス用ではないクローズドなアクセスポイントに間違って接続するのを避けることができるようになっています。マルチ SSID ですから、アクセスポイントのハードは 1台ですが、複数の SSID をアナウンスしていて、どちらからの接続も受け付けるということですね。業務用アクセスポイントだけ、というわけではなく、コンシューマー向けの無線 LAN ルータでもこの機能をサポートしているものが増えています。

駅といっても、ホーム中で使えるわけではない無線 LAN

同じ地下鉄駅の構内にアンテナを設置してあっても、携帯電話に比べると格段に公衆無線 LAN の接続できる範囲は狭くなります。

駅に強い NTT-BP 系の 3社いずれかと契約しておけば、電車に乗車していても、駅を通過する瞬間や停車中に一瞬ぐらいつながるだろう、数秒の間にメールを送受信して、ブログの公開ボタンを押して…などとケチケチ生活を一度は考えてしまうところ 🙂 …. ですが、電車の中から無線 LAN の電波をとらえるのは、よほど何両目が停車時にエリア内か計算して乗車しない限り不可能です。

なぜか。例えば Mzone の「丸ノ内線 新宿駅」アクセスポイントの例では、

  • B2F ホーム中央付近
  • B1F 荻窪方面改札付近
  • B1F 中央プロムナード付近
  • B1F A8/B11/B12番出口付近

と、細切れにしかサポートされていない、それも一つの駅に複数のアクセスポイントがあればまだマシな方なのが、公衆無線 LAN サービスの実情です。これは、以前書いたようにそもそも無線 LAN の IEEE 802.11b/g/n で届く距離が狭すぎるため、アクセスポイントの消費電力は携帯の基地局より小さくても、同じ個数だけ設置してもカバーエリアが小さいことに根本的な原因があるでしょう。

しかし、一般的な利用者は「新宿駅」と言われたら携帯並みに、ホームの端から端…とは言わないけれど、それなりの確率でつながるサービスを想像しますので、かなり幻滅するのではないかと思います。

インフラとしては狭すぎる公衆無線 LAN に駅は向かない

無線 LAN 国内市場は IDC Japan の調査によれば 2007年で 111億円だそうです。しかし、市場が広がりを見せているとはいっても、それはスマートフォン、PC、家電、ゲーム機、そして家庭用 / 企業用アクセスポイントといったハードウェア市場であって、公衆無線 LAN サービス (ホットスポット) ではないと思います。

例えば、NTT ドコモは NTT-BP の株を 22% 所有していますが、当然ながら主たる業務は携帯電話ネットワークによるサービスです。ただドコモ携帯はカバーエリアは広くても、「定額データプラン」はなかなか料金を下げられずにいます。そこで、2次的で月額固定収入が得られるソリューション (今のドコモ風にいえばアンサー 🙂 ) として Mzone を捉えているでしょう。

携帯電話事業を持っていない NTT コミュニケーションズや NTT 法に縛られている NTT 東日本 / 西日本は、もうちょっと違った目で NTT-BP を捉えているかもしれませんが、今まで見てきたような公衆無線 LAN の屋外での通信メディアとしての中途半端さを考えると、ニッチで補完的なもの以上ではありません。

「駅」で公衆無線 LAN をサービスする使命を背負っている NTT-BP には可哀想ですが、タテヨコに細長い鉄道の駅ホームで、ステッカー貼って公衆無線 LAN をサービスし続けても利用者は増えないでしょう。

一つのアクセスポイントで、より効率よくサービスできる、より立方体に近い空間、つまりワンフロアの飲食店フランチャイズを拡大していった方が、私のようなもう少しでマクドナルドのリピーターになるところな客も増えるでしょうし、飲食店側との思惑ともマッチして利用拡大が図れると思います。