先日、ドコモ OS を簡素化しても、au KCP+ よりバグが減るわけではないという投稿を書いた翌朝起きてみたら、iモード開発者の一人である夏野剛さんが、NTT ドコモを退社するらしいというニュースが世の中を騒がせています。

日経ネットによるとご本人のコメントらしきものが載っていたり、広報部はノーコメントだったり、そしてスラッシュドットジャパンには事情通な人が色々コメントを書いていたり、挙げ句に今日の日経トレンディネットには本人に取材した記事が載っていて、結局どうなるんだというか、言えないことが沢山ありそうな不完全燃焼で終わってしまっています。

iモード携帯が最初に発売された 1999年に、N501i を買いましたが、ネットバンキングが携帯でできる手軽さもさることながら、機能の「割り切り」に関心した覚えがあります。パーサーを軽くするために HTML ではなく Compact HTML を採用したり、送れるメールが 500bytes までだったり。巨大な組織ゆえ、多数の意見の論理積になってしまって、重厚長大な製品を出してしまいがちな NTT グループにしては、逆に衝撃的なスペックでした。

今更ながら、奥にしまってある「iモード事件」をふと出してきて読んでみました。この本はリクルートの編集長を辞して NTT ドコモに引き抜かれた松永真理さんが書いています。どちらかというと、コンテンツプランニング寄りの方らしく、あまりテクニカルなことは書いていないのですが、それでも拾い読みすると

  • 50字までの文字表示
  • 100グラム、100cc を切る
  • 電池の持ち時間が現行機種と変わらないこと
  • PDA にするな、普通の携帯電話にしろ

といった、なかなか興味深いハードウェア上のスペックが開発の初期段階で明言されていることが分かります。これらの目標や WAP でなく Compact HTML を採用するといった判断も含めて、iモード開発の総責任者だった榎啓一さんがされているようですね。ドコモ自身が苦手なコンテンツを企画するのに、NTT グループの社風からするとかなり意表をつく人選で松永さんを抜擢して、その松永さんが夏野さんをドコモに引き入れた…となっています。これを読むと。

最初の iモードがそんなに革新的といっても、今から思えばピンと来ませんが、たとえば NTT ドコモの株価は iモードが出た翌年の 2000年 2月には 914,000円、現在 4/2 の終値が 157,000円で 5.8倍だったことを考えると、当時の過熱ぶりが伺えます。

iモードの成功の原因は、コンテンツ提供会社のラインナップもですが、 「ごてごて重い端末」にしないスリムなスペックのバランスが相まって、利用者にも新規参入のコンテンツ開発者にも受けたのだと思います。そういう環境を作り出したのはもともと誰、と考えると、nire 的には、榎さんというリーダーは、iモードを語るときもっと評価されてしかるべきだと思っています。

夏野さんの真実のほどは分かりませんが、松永さんも含めて、パラダイムシフトを起こすような製品が出ていて、今もiモード携帯が市場を牽引しているのに、8年でキーパーソンが iモード開発の現場からいなくなってしまう組織にこそ、問題がある気がします。