ダビング10 (ダビングテン) は、地上波デジタル放送 (地デジ) の録画について新たに提唱されている仕様ですが、この議論はずいぶんと紛糾していて、不毛な議論になりかかっています。

月並みだがコピー・ワンスの話から

このブログでは初めての内容になるので、コピー・ワンスの話から始めます。

現在の地デジ対応の HDD レコーダーなどの機器は、コピー・ワンス ((Copy Once. COG: Copy One Generation)) といって、コンテンツの複製ができない仕様になっています。地デジ放送を一度録画してみれば分かりますが、動画のクオリティは非常に高いため、これがもし無制限にコピーできてしまうと、素直な消費者心理としては、確かにブルーレイディスクで後から作品を購入したり、ネットでコンテンツを購入する気にはなりません。

問題は、コピー・ワンス対応機器で HDD がいっぱいになってきて、どうしても保存版にしたい番組を DVD や Blu-ray などのメディアに追い出すときですが、コピーならぬムーブという概念があります。HDD → メディアに動画が転送された後、HDD 側からは消去されるのです。ところが実際にはムーブの途中で失敗してしまい、結果として HDD からもメディアからもお気に入りの番組が消えてしまう可能性があるのです。

両方消えるなんてそんなバカな、と思うかもしれませんが、仕様により 1分以上同じ映像がムーブ元とムーブ先に存在してはいけない、つまり、ムーブ中にどんどん元のファイルを消していく仕様になっているようです。 ((社団法人 電波産業会による ARIB TR-B14 地上デジタルテレビジョン放送運用規定 第3分冊)) ムーブ時にバックアップを用意しておく、という案まで用意されたようですが、実装のことを考えるとあまり現実的な仕様とは思えません。

EPN (Encryption Plus Non-assertion)

そこで、放送時に暗号化をかけ、ネットへの違法な再送信だけを抑制しつつ、暗号に対応したローカルな機器 (e.g. HDD レコーダ、各種ドライブ) の間では個人利用目的の複製ができる EPN が検討されましたが、機器どうしのコピーが管理されていないと、やはり事実上のコピーフリー ((コピーし放題)) になってしまうのでは、という反対意見があり、EPN ではない方法を模索することになったようです。違法ダビングされた番組がヤフーオークションなどに出品されているのを危惧してのことなのでしょう。

ダビング10

ダビング10 は、この問題を解決するために、1世代コピー(COG) 9回 + ムーブ 1回 = 計 10回を可能にする仕様です。社団法人デジタル放送推進協会 (D-pa) は 6月2日午前4時からダビング10 に対応した放送を開始するとしていましたが、頓挫してしまいました。

著作権の日本音楽著作権協会 (JASRAC) など著作権関連28団体で構成する「デジタル私的録画問題に関する権利者会議」は、私的録音録画補償金をレコーダーなどに課金することを主張し、メーカー側の団体である電子情報技術産業協会 (JEITA) が「デジタル録音・録画機器は「補償金の対象にすべきでない」と主張し、途中の経緯はさておいて合意に至らなかったためです。

挙げ句の果てに、「ダビング10を人質になどしていない」「メーカーは“ちゃぶ台返し”だ」といった、おそらく経緯や本意とは少し違うところで、いかにもマスメディアが好む、見出し用語に使いやすいワードによる対立の構図になってしまっています。

個人的にダビング10 の感想

とりあえず個人的にダビング10 の感想をまず書くと、

  • 仕様の善し悪しはともかく、コピーワンスでない新しい仕様の製品が出てくるのは、一人の技術オタクとしてはとりあえず歓迎。メーカーとしては需要も期待できるでしょう。地デジ対応テレビやらレコーダーをオリンピックに合わせて買う人が全てだと本気で信じている人がいれば、いつの時代なのですかと私のようなマニアに怒られますが
  • データ訂正不能な場合を除いて劣化しないはずのデジタル動画データなのに、わざわざ仕様で作り出された「人工的な寿命」のせいで、「こないだ録った xxxxx は残り何回コピーできるんだっけ?」とびくびくカウントを気にするのは萎える仕様です。どうもデジタル潔癖症の性に合いません 🙂
  • 結局、コピーワンスがダビング10 になったところで、一般的な消費者による典型的な地デジの視聴のされ方は、そこそこ容量の大きな HDD レコーダーを購入し、気に入った番組だけ貯め、容量足りなくなったらメディアには書き出さずに消去する、で終わってしまう気がします。

結局、新製品はとりあえず買うけれど、ネットで買うか、TSUTAYA で借りるか、Amazon で買うか、10カウントとは関係のない世界で楽しむ方向で落ち着きそうな気がします。

感想はこれぐらいにして、次回はそもそもなぜダビング10 になったのかについて書いてみる予定です。

続き: ダビング10: 船頭多くして船山に上る Part2