押井守監督というと、年代によって「うる星やつら」「パトレイバー」「攻殻機動隊」などを思い出しますが、新作で「スカイ・クロラ」というアニメがあります。7/5 にワーナー・マイカルむさし野ミューで行われた試写会とトークショーイベントが当たったので、行ってみました。

このアニメ、戦闘機パイロットのユーイチと基地の女性司令官スイトを軸に繰り広げられる SF ストーリーで、彼らはキルドレと呼ばれ、見た目が 16-17歳のまま成長しない、という設定になっています。原作小説が 6巻あります。

20分だけの試写会はやや不完全燃焼

全編見せてくれる試写会かと思っていたのですが、さにあらず。最初の 20分だけを上映し、あとは押井守氏、キャラクターデザイナー、作画監督の西尾哲也氏のトークショーでした。意図的に作品への飢餓感をかき立てようという意図なのでしょうが、今回のイベントよりも前に、全編上映つきの特別イベントがあったらしく、その時に参加していた人はいますかと監督が来場者に質問したところ、半分以上が挙手していたような気がします 🙂

以下、トークショーで押井守氏が言ったコメントの一部です。

トークショー本編でのコメント

  • 映画化はムリだと思った。しかしこの作品にはあるニオイを感じ、そういうときは自分の中にないものがあるので、映画化を引き受けた
  • 原作には場所も明確な設定がないが、映画では、登場人物は日本人だが、場所はポーランドのイメージだと思い、現地にスタッフを連れてロケに行った。
  • ロケハンはイメージハンティング。自分は写真は一切撮らない。ボーッとして、全方位で捉える。現地をエンジョイし、雰囲気を持ち帰る。 ((監督はそうですが、スタッフは膨大な量の資料写真を撮ったようです。))
  • スタジオには顔を出したほう。毎日行った。一日 3時間もいた。アニメは作品との距離が難しい。夫婦みたいなもの。長くいすぎると、自分と波長が合ってきてわからなくなる。苦労して良い作品になるとは限らない。
  • 攻殻機動隊、イノセンスのときはほとんどスタジオにいなかった。

Q&A

  • Q. この映画で今の日本の人たちに向けて送るメッセージのようなことをおっしゃっていたが、それはどんなメッセージですか。
  • A. 監督として適切な言葉を持ってはいるが、それは自分自身が格闘してイメージを持ったもの。映画を見てもらって、格闘してもらうしかない。
    「生きる」という言葉1つとっても意味が違う。人生を生きてきた背景が人によって違う。生きていくための確信があって、誰かに伝えたい瞬間がある。それを登場人物と行動をともにして、生きることでしか伝わらない。
  • Q. 大人はどういう存在だと思いますか?
  • A. 昔は大人は大人だった。今は大人は何かをあえて問わないといけない時代になった。

牧歌的テイストと空中戦 CG の奇妙な取り合わせ

私は実は、ナムコのフライトシューティングゲーム ACE COMBAT (エースコンバット) シリーズのスタッフが作った「スカイ・クロラ」のゲーム「イノセン・テイセス」があるということで、そちらから興味を持ったのでした。せっかくメディアミックス的にやるなら、ゲーム版でも、映画の物語と前後のつながりがあるような巧妙な作りを期待したのですが、ストーリー的には別物のようですね。

映画のほうは、CG での戦闘シーンは最初の 20分だけでも悪くない感じだったのですが、「戦闘妖精 雪風」の、あり得ない架空の舞台設定だけどリアリティあふれる描写や、「マクロスF」のような重厚感とカメラ映えする「斜に構えた」見せ方に力を入れた動画を見てしまうと、突出した何かは無いように思いました。

地上シーンにおけるスタジオジブリ的な牧歌的テイストと、エアーコンバット的な空中戦 CG の奇妙な融合」という感じがします。「紅の豚」がもう少し青春している感じなんですかね。逆に言うとアニメのテイストと CG のつなぎ目が後半で不自然にならなければいいが、という気がします。どちらかというと原作を通して読んでみたいですね。

監督としての作品の関わり方は何ともいえません。担当者レベルでも上級管理職レベルでも常に忙しく、辞める理由は、燃え尽き症候群 (burn out) か他の会社へのステップアップの二択しかないというウチの職場環境ではちょっと信じられませんが。:-) 結局はチームバランスしだいというか、今回の作品では作画監督の西尾哲也氏が絵コンテから作画チェックまでこなしていたらしく、そういったプレイングマネージャーとのセットで初めて生きてくる組合せだとは思います。