前回、Eee PC 900-X、Eee PC 901-X、Aspire One の主にバッテリー駆動時間を比較しましたが、前回も書いたように世の中のノート PC で、仕様通りにバッテリーが持ったためしはありません。

そもそもバッテリー駆動時間って、どうやって計測しているのでしょうか。

Eee PC 900-X の仕様を見ると、JEITA バッテリ動作時間測定法 (ver.1.0) に基づいていることが分かります。JEITA (社団法人電子情報技術産業協会) は、ダビング10 論議にも参加していましたが、電子機器メーカーや IT 産業の業界団体です。

PDF を見ると分かりますが、この計測法、

  • MPEG1 (320 x 240) 動画を再生しっぱなしでバッテリーが切れるまでの時間 (測定法a)
  • LCD 輝度最低で放置してバッテリーが切れるまでの時間 (測定法b)

の平均値を取ります。最も電力を食う使い方と、ケチケチ節電した使い方の平均を取っておけば、平均的な駆動時間になる、というところなんでしょう。だけど MPEG1 と言われて前時代的なものを感じる人もいるはずです。それもそのはず、この測定法は 2001年6月に Ver1.0 が策定されて、バージョンナンバーを見る限りまったくアップデートされていない様子。

MPEG というのは動画音声の圧縮方式の 1つで、MPEG 1/2/4 とあり、1 は VHS 程度の画質でしかなく、ビットレートも 1.5Mbps 程度です。過去に MPEG1 エンコードされた動画の蓄積はそりゃ多いでしょうが、MPEG2 が DVD-Video などに、MPEG4 は携帯電話などに使われている現在、PC の HDD や描画チップや液晶に負荷をかけるバッテリードカ食いシナリオとしてはすでに力不足でしょう。

日本向けと他国向けで同等スペックの PC なのにバッテリー駆動時間が違う

Eee PC 900 と Eee PC 901、それぞれ海外向けのスペック表では、バッテリー駆動時間はどのように表現されているのでしょうか。JEITA は日本の団体ですので、海外では違うスタンダードが使用されているにしても、大きく数値が違わないはずです。

900 901
日本 Eee PC 900-X
約4.3時間
Eee PC 901-X
約8.3時間
台湾 Eee PC 900
(記述なし)
Eee PC 901
6 Cells, 4.2 ~ 8 小時 (時間)
Global Eee PC 900
Up to 2.5hrs
Eee PC 901
8hrs

まず “-X” のついているのは日本国内向け、台湾 / Global で紹介されているのは “-X” のない Eee PC 900 / Eee PC 901 で、微妙にスペックに差があるかもしれないことはお断りしておきます。

それにしても、CPU や液晶ディスプレイなど他のスペックに差が見られないのに、数値が結構違うことが分かります。

Eee PC 900 (900-X) は、日本では約 4.3時間なのに対して、Global 版 Web サイトでは Up to 2.5hrs (最大 2.5時間) と表現されており、バッテリーがどちらも 4セルで中身が同じだとしたら 1.7倍の開きがあるのは不自然です。

Eee PC 901 (901-X) は、「最大」バッテリー駆動時間は約 8時間と大きな差はないものの、台湾版 Web サイトでは 4.2時間まで落ち込む場合もあるとしています。確かに他の UMPC に比べれば Eee PC 901-X はバッテリーの持ちは圧倒的ではありますが、台湾での表記の方が、体感によほど近い気がします。

計測方法ですが、Eee PC 900 (Global) のサイトを見ると、バッテリー駆動時間の計測方法として BatteryMark 4.0.1 というベンチマークを用い、液晶ディスプレイのブライトネスは 40%、無線 LAN と Bluetooth とカメラをオフにして計測することになっています。

Estimated maximum battery life under Windows XP is measured with BatteryMark 4.0.1 (in Eee PC Super Hybrid Engine Power-Saving mode, 40% LCD brightness, Wi-Fi off, BT off( if available), and camera disabled). Actual battery life may vary based on product settings, usage patterns and environmental conditions.

JEITA 自身の Q&A によると、Zif Davis 社の BatteryMark と JEITA 測定法に

直接の比較は出来ませんが、極端な差は無いようです。

とあり、最初から同じスペック表に併記している ThinkPad X61 のように、BatteryMark 3.0時間、JEITA 1.0 3.2時間とそんなに差がないような例もあり、Eee PC 900 がなぜここまでかけ離れているのかは謎です。

バッテリー測定法の統一とバージョンアップが望まれる

バッテリー駆動時間の測定法として JEITA バッテリ動作時間測定法を使うのは必須ではなく、メーカーによっては測定方法を明らかにしていないところもあります。そんな中、バージョンを上げてしまえば、同測定法を採用したメーカーでだけ、バッテリーの持ちが悪いように見えてしまう…というジレンマがあるでしょう。

しかし、実態に合わず誰も信じないバッテリー駆動時間を仕様として表示しても、ノート PC を初めて購入する消費者に性能を誤認させるのも確かです。

類似の問題として、自動車の世界で燃費をどう表示するかという問題があり、60km/h で走行時の定地燃費から始まって、10モード燃費、10・15モード燃費、そして 2011年には JC08 モードと、どんどん表示方法は進化しています。

ノート PC も 5万円、6万円のものがブームになってきて、さらに生活家電的な商品として買われるようになっていくのでしょうから、バッテリーの表示方法も同様に実態に即した方法にバージョンアップが望まれるところです。