goo の第 9回ブロードバンドコンテンツ利用実態調査によれば、「違法な動画が掲載されず見られなくなったら、動画共有サイトは利用しない」と答えた人は、36,615件の回答の中で実に 22.2% を占めるそうです。

著作権に理解が深まっていない若年層だけかと思いきや、回答者のボリュームゾーンは 30代、ついで 40代。この設問での内訳はわかりませんが、いい年した働き盛りの世代も入り交じって、ケシカラン意見を述べているようにも見えます。著作権をもともと保有しているコンテンツホルダーにとっては、忸怩たる思いでしょう。

先日、我が家で前評判大だったアニメ作品をテレビで視聴していると、開幕早々次のようなテロップが表示されました。

 「最近、インターネット上でのテレビ番組の不正利用が多発しています。番組を権利者の許可なくインターネットなどを通じて配信したりすることは法律で禁じられておりますのでご注意ください」

( 「無許可のテレビ番組配信は違法」――新「コードギアス」OPに注意文)

どんなコンテンツ産業も、

無料で配布するお試し版、特徴的なシーンを全部盛り込んだ予告編、着メロの試聴など、部分的にチラつかせることで購買意欲をかき立てようとしてきました。過当競争になると「部分」の割合は増えます。ついには、いわゆるチラ見せ部分が作品全体の 100% になってしまいます。ついには、全編を動画サイトに「低」画質で流し、それに代わる収入源を確保するビジネスモデルになっていくのは自然の流れでしょう。

その画像を権利を保有しない第三者がアップロードするのは著作権侵害ですが、第三者がやらなくても、そうまでしなければコンテンツは売れない時代になると思います。コンテンツホルダーとしては、「では、有料コンテンツにして、PPV (ペイパービュー) にして…」とダイレクトにお金を取ることに必死になりそうです。

「日本のコンテンツ、ネットのせいで沈む」とホリプロ社長という記事を見ていると、そんなコンテンツホルダー側の怒りを鉄拳を振り上げて本音をぶちまける様子がまざまざと伝わってきますが、違和感を感じざるを得ません。

かくいう私も、1994年にお店と協力して作った讃岐うどん屋さんのコンテンツを、まだネットコンテンツに対する著作権という概念さえもなかった時代に、あるテレビ局の TV 番組や、幕張メッセでのイベントなどに無断で利用され、いずれも即座に利用中止するよう訴えたことがあります。心情は理解できるし、14年後の現在おなじようなミスをマスコミが冒すようなら、必要な手段に訴えるでしょう。

しかし、「昔のテレビ視聴者は良かった、NTT は (たぶんフレッツスクウェア用に) おたくのコンテンツをタダでくださいと言ってくる、具体的なビジネスを持ってこい」と言いますが、コンテンツホルダーは特権階級でも何でもなく、お客様は神様であり、売っているのは人を喜ばせるためのエンターテイメント作品であることに変わりはありません。シンポジウムで発言した内容を、ホリプロのコンテンツを購入するエンドユーザーも見ている。それにより反感を買ってしまうことまで計算してから発言するべきでした。

アニメ作品の注意文にしても同様で、著作権を主張するあまり、視聴者は余計なテロップが画面の上に出てくるだけで、いかに作品を楽しもうとするモチベーションを削がれるかに配慮していません。

日本のエンドユーザーは冒頭のアンケートが示すように、著作権意識が希薄になっています。 ((プロフェッショナルであるテレビ局の著作権意識が希薄なのは大問題ですが。)) 加えて、日本人は昔からコラージュ、模倣、真似から入る文化が大好きです。ニコニコ動画にかぎらず、ネットは誰が作ったのか不明な MAD ((既存作品の音声と画像を部分的に集めてきて、再編集した動画)) であふれており、中には独特のセンスを感じるものや、オリジナル作品超えの出来栄えのこともあります。これらは、「自分がライセンシーであるかのように販売している」海外の海賊版に対して著作権を主張するのと、少々性質が異なる気がします。

そんな中、啓蒙活動や、違法かどうかの議論も必要ですが、コンテンツ産業を盛り上げていくために、日本人の特性にチューンナップしたビジネスモデルが必要になるでしょう。使い古された例では広告収入、あるいは「低」画質な動画全編を見たユーザに高画質な DVD なり BD を購入してもらうといったものですが、ニコニコ市場のような新しい試みも行われています。

そのアイデア出しは、コンテンツホルダーがネット産業に下請けしてやらせる仕事ではないのです。