引き続き SECURITY SHOW の話題。イトーキの LAN Sheet という無線 LAN 製品で、なんと机にアンテナを置いてしまおうというものです。

無線 LAN の電波は常に漏れる

会社で会議するとき、昔は印刷物を人数分配っていましたが、ノート PC をそれぞれ持ち込んで、プレゼンも手持ち資料も PC で参照したり、プロジェクターに映したり、といったスタイルが増えています。

そんなとき無線 LAN は、アクセスポイントからの電波が届く範囲なら、いちいちケーブルを接続しなくても、どこでもノートPC や携帯端末を持ち歩いて通信できるのが便利です。

しかし、ニンテンドー DS の話題で書いたように、無線 LAN の電波は四方八方に放射状に飛んでいます。そして、材質にもよりますが、少しですが壁やガラスも通過することができます。建物内に不法侵入しなくても、窓の外でノート PC を持って立っていれば、通信の傍受は可能になってしまいます。また複数の会社が入るビルでは、隣の他社オフィスに電波が漏れているかもしれません。

漏れても大丈夫なようにするのが無線 LAN アクセスポイントやモバイル機器が提供しているセキュリティ技術ですが、WEP, WPA, WPA2 とイタチごっこ状態で、つねに破られる危険性があります。

で、あれば電波自体が必要なところにしか飛ばないようにすればいい、ということになります。

電波が「飛ばない」アンテナという発想

外側を囲う、つまり建物の外壁の素材に、電波をより通しにくい材質を使う…という発想は出てきそうですが、建築時から壁にシールドクロス工法を使ったりと大がかりになります。

そこで逆転の発想なのがこのイトーキの LAN Sheet という製品の面白いところ。会議室の机のそばでだけ電波が受けられるようなアンテナを設置すれば、会議に参加している人のノート PC でだけ電波が送受信でき、それ以上離れている悪意ある第三者には、最初から電波が届かない、というわけです。

シート状のアンテナで周囲 1m をカバー

そこでこの「LAN シート」という商品、特殊なアンテナと接続機器のセットになっています。

アンテナは細長いシートになっていて、下敷きのようになっています。上に物を置いても平気ですが、紙をおいて字を書いたりすると筆圧でキズがつくかもしれないそうです (会場担当者談)。机全部を覆わないのはそういう理由で、着席したとき、手前半分はアンテナがないただの机スペースになります。

有線 LAN と LAN シート間のやりとりは、下敷きからケーブルが生えているわけではなく、シートとペアになる専用のユニットがあり、聴診器のような丸い「近接コネクタ」、さらにアクセスポイントを通して有線 LAN につながるようになっています。いきなり他社たとえばバッファローの無線アクセスポイントを持ってきてもダメのようです。 🙂

ノート PC 側と LAN シート間は無線 LAN (IEEE 802.11a) による通信です。最初、ノートPC 側にこの “聴診器” が必要なのかと思いましたが、そうではないようです。

会場では、ノート PC 上で Windows Media Player を起動して動画を再生し、無線 LAN 対応のプロジェクタで表示させるというデモをしていましたが、確かにノートと机の間が 1~2m ぐらい離れたところでプロジェクタ上の動画再生が止まっていました。

アイデアとしては面白かったので、これはコンシューマー用に発売する予定があるのか聞いてみましたが、まだ LAN シート、近接コネクタ、アクセスポイントのセットで 20万円なので、まだ価格的に企業向けですね、とのこと。

アイデア商品だけど、値段考えると市場が狭い

普通は無線 LAN のアンテナは、天井など高い位置に設置して遠くに届かせようとしますが、それをノート PC の下つまり机に設置して、電波の飛びも意図的に抑えようというこの製品、考えた開発者はけっこう頭が柔軟だと思います。

イトーキはオフィス家具メーカーなので、家具につける付加価値として無線 LAN つけました、という売る方のモチベーションとしてはまぁ理解できます。シートを机上に貼らなくても、最初からシートを内蔵したタイプの会議室机もあるようですから、それならシートとの段差もなく、スマートかもしれません。

ただ、20万払って範囲を 1m に制限するなら、いっそ有線 LAN にして HUB 置いときゃ安いのでは? という疑問がどうしても浮かびます。

会社の社風にもよるでしょうね。少人数での会議メインであれば HUB でもいいし、20人ぐらいで長~い机を囲んで会議をするような場合には、ちょっとしたスケールメリットは出てきそうです。

また特定のアクセスポイントとセット必須なのもネックです。現状の無線 LAN セキュリティでもっとも安全と言われている WPA2-AES も、そのうちクラウドコンピューティングでマシンパワーに物を言わせてクラックされる日は来るでしょう。 🙂 そのたびにシートごと取り替えるのは、ちょっと難儀です。

それなら、最新の暗号化セキュリティに対応している 1万~数万円の無線 LAN 製品をテンポ良く買い換えつつ、社内秘の情報は https を必ず使用するといった一般的な対策の組み合わせのほうが、費用的にも技術的にも好ましいと思います。

もっと野心的なアイデアがありそうな二次元通信技術

この 製品、二次元通信技術という特許を元にしており、近接コネクタとアクセスポイントを含めて、ベンチャー企業の株式会社セルクロスが開発しているそうです。またシートはセルフォームという帝人ファイバー株式会社の技術とのことで、技術的には野心的なニオイを感じますが、本当はもっと別の応用分野を考えているのかもしれませんね。 🙂