B-CAS カードの現状について書きましたが、7月7日の朝日新聞で、「B-CAS と競う新機関案」と報じられています。地上デジタル放送の著作権保護のために現在採用されている「B-CAS (ビーキャス) カード」方式と別に、新しくライセンス発行・管理機関を設立し、B-CAS カードを使わない著作権保護も選べるようにする、というものです。

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デジコン委によるエンフォースメント案 3種類

そこで、総務大臣の諮問機関である情報通信審議会では、デジコン委員会 ((総務省 情報通信審議会情報通信政策部会の「デジタル・コンテンツの流通の促進等に関する検討委員会」)) で中間答申案をまとめ、エンフォースメントの方法として B-CAS カード以外の方法もとれる仕組み作りを提案しています。「物理的なメディアは何か」という意味だと、次の 3つの選択肢ができることになります。

  • B-CAS カード … 現行のクレジットカードサイズ
  • 小型 B-CAS カード 「ミニカード」 … Plug-in SIM サイズ
  • ソフトウェア方式 … カードを使わない

ミニカードなら、「一家に一台」が「一人に一台」に

SIM カードというのは、携帯電話で加入者を識別するために差してある小さなカードのことです。携帯に内蔵しやすいサイズにしました、ということなのでしょうが、そもそも携帯通信事業者が加入者の個人情報を書き込んでいる SIM カードに、20桁の B-CAS カード番号を同居させるとなると、携帯通信事業者との調整が難航することが予想されます。

しかし B-CAS 社からしてみれば、据え置き型のお茶の間地デジ対応テレビでは「一家に一台」だったものが、携帯電話に内蔵されれば家族の人数分 B-CAS ミニカードが発行できます。携帯電話メーカーも、そもそも地デジは携帯の液晶じゃ見られないじゃん、という解像度面の問題は残りますが、ワンセグケータイに飽きたユーザーに新しい携帯を売る口実ができるわけで、双方、鼻息も荒く調整してでも実現したい巨大市場ではあります。

問題は独占禁止法ではない – ソフトウェア方式だけ新機関

ここで、そもそも何でカードにこだわるのか。カードは無くて良いではないか、というのがソフトウェア方式ですが、なんとこのカードレスな方式、B-CAS ではなく、別の新機関を設立して、そこがライセンス発行・管理を行うというのが「新機関案」です。

新方式におけるライセンス発行・管理機関の全体相関図 (例)

そもそも別な機関を提案している理由は、B-CAS 社の1社独占が独禁法にあたるのではないか、という批判があるからですが、重要なことを見失っている気がします。

優先順位が一番高いのは、ユーザーの利便性です。
独占禁止法でも、カードの小型化でもないはず。

いや、そりゃ HD-DVD と Blu-ray Disc のように、メーカー間の記録メディアの規格戦争により、規格じたいのクオリティが高まって、最終的に片方の規格が残れば、途中はともかく最終的にユーザーは得をするでしょう。

BS デジタルに NHK-BS、WOWOW、スター・チャンネルという選択肢があって、それぞれコンテンツに特色を出しているのも、選択肢が広がるという意味で視聴者にとっては理解できる話です。

ただし、自由競争させれば性能が良くなり、価格が安くなるから良いことづくめ、というのはサブプライムショック以前の発想だと私は思います。景気低迷の状況下では、大半の消費者は「選んで失敗するリスクがあるなら、今はどれも買わない」可能性が高くなります。

Blu-ray Disc の勝利が確定するまでレコーダーを買わない。DVD レコーダーでいいや。UMD 無しモデルに大勢が移行するまで PSP go も買わない。つまり、規格がどれか 1つに定まり安定するまで、消費行動を起こさなくなる、買い控え現象が広がってしまうからです。

ましてや、ユーザーから直接違いが分かりにくい「ライセンス管理」という部分で、管理機関が複数あるというのは、全くもって意味不明です。

B-CAS カード、ミニカード、ソフトウェア方式を共存させるために、放送事業者は複数のライセンス発行・管理機関を相手にする必要が生じます。

乱立する規格のどれでもコンテンツ保護のメカニズムが機能する互換性をキープするため、包括的なライセンス管理のメカニズムには、今までになかった無駄なオーバーヘッドが生じるでしょう。

B-CAS 社かどうかはこの際どうでも良くて、1社もしくは 1つの管理団体で管理する形にしておいて、さっさと IC カードを捨てソフトウェア方式のみに移行してしまうのが、大半のユーザーが望む姿に違いありません。

そんなこと言うと B-CAS 社と IC カード関連メーカーの商売あがったりだというなら、せめて現行 B-CAS カードとソフトウェア方式の 2種類ぐらいに留めておかないと、収集がつかなくなるのではないでしょうか。

放送事業者とメーカーと総務省とライセンス管理機関とやらが、消費者不在のまま足を引っ張り合って 2011年 7月に地デジ移行できませんでした、放送局側にも地デジ移行のための膨大な負債だけが残りました、結局、テレビしか見なかった高齢者までネット動画に流れました、という結果になりそうな気もします。