B-CAS の話を書くのは初めてなので、本題に進む前に、まず B-CAS カードという大きなカードが地デジ視聴に必要な話、CCI の話、そして現状の何が問題なのか、といった話から書いてみます。

B-CAS カード: BSデジタル CCI 対応マーク付き: 表面 B-CAS カード: BSデジタル CCI 対応マーク付き: 裏面

地上波の視聴でも “BS” 由来の IC カードが必要

B-CAS カードは、地デジ / BS デジタル / 110度CS 対応のテレビ、チューナー内蔵ビデオレコーダーなどに入っています。株式会社 BS コンディショナル・アクセス・システムズという会社が発行しているものです。

「見たいのは地上波なんだけど、カードはどうして BS なのか?」と思ってしまいますが、名前の通り、BS デジタルで使われている技術を、後発の地上波デジタルなどに使い回しているわけです。

クレカサイズだけど、IC チップを内蔵した接触式カードというと、通常、会社でのセキュリティ管理、ものを買うときのポイントカードといった、ユーザー 1人に関連づけられた情報をしまっておく場所、というイメージがあります。しかし、別に地デジ対応テレビにこれを差したからって、ネットでショッピングできるわけではありません。

そもそも、人間が持ち運びやすい大きさのカードが、持ち運びもしないテレビに内蔵されていて、カードとカードリーダーとで、無駄にスペースを取っている時点で、すでに謎です。

e-Tax に住基カードが必要というのと同じで、セキュリティを確保するために IC カード、という発想からして、すでに 2003年あたりの古い発想という気がします。

コピー許可の信号 CCI を物理的に守らせるための仕組み

裏面のちょうど隠してある箇所には、20桁の B-CAS カード番号が書かれていて、カードの中には暗号化されたデジタル放送を解錠するための電子暗号鍵が入っています。デジタル放送には、無料放送であってもわざわざ暗号化が施されているのです。 ((MPEG2-TS ストリームに MULTI2 暗号化))

なぜ、クレジットカード番号やパスワードでもないのに暗号化が施されているのか。

それは、デジタル放送は、アナログ放送に比べて画質が高く劣化も少ないため、そのまま録画されてしまうと、高画質な動画ファイルとして何回でもコピーされ、放送した番組コンテンツを私的複製だけでなく、著作権者、放送権と言った権利者が許可していないビジネスに使われる恐れがあるからです。

そのため、デジタル放送時にはコピー制御信号 CCI ((CCI: Copy Control Information)) を付加して、大半の民放地デジ番組では「ダビング10 まで許可」、WOWOW では「コピーワンスのみ許可」 ((WOWOW がコピーワンスしか許可しないのは、ハリウッド配給元との契約上の模様。)) といったポリシーを守るよう、視聴者の受信機器に伝えるわけです。

ところが、いくら CCI があっても、受信機器側が無視するような機器であっては、違法とは言えないものの権利は守られないため、放送コンテンツ自体を暗号化し、「CCI 信号の指示通りにコピー回数の制限を行う」行儀の良い機器にのみ、暗号解読のためのカギを与えるようにしたわけです。そして、その機器認定を B-CAS 社が行い、別途 B-CAS カードを発行し、カードがないと受信できないようにすることで、放送時のポリシーを物理的に強制するわけです (エンフォースメント)

仕組みは必要だけど、クレカサイズは勘弁してほしい

動画コンテンツの海賊版が出回るのを防ぐ仕組みが必要、というところまでは、権利者の権利を保護するためだから理解できます。しかし、保護する手段は、何もわざわざカードでなくても良いわけです。

ビデオレコーダーでは、IC カードとカードリーダーが内蔵されていても、別にそれほど不自由は感じませんが、筐体も薄型化、小型化が進んでいます。

ミニノート PC で地デジを見ようと思っても、わざわざクレジットカードサイズの B-CAS カードとリーダーが必要で、内蔵するスペースがなくて、外付け USB になります…と言われると、地デジ見るのに、なんでそんなに大げさにしなくてはいけないのか、と利便性まで損なわれてしまいます。

ネットブックでハイビジョン USB地デジチューナー QRS-UT100B リモコン付属

携帯電話にいたっては、内蔵するのは絶望的なサイズです。

「地デジ、面倒くさいからもうアナログ放送で良いじゃないか」と世論が傾いてしまっては、2011年7月の地デジ移行は理解が得られなくなりますし、高画質なデジタルコンテンツを視聴してもらいたい権利者としてもメーカーとしてもハッピーではありません。

そこで、「B-CAS ではない」ライセンス管理の方法が現在検討されています。

つづく。