ニコンのデジタル一眼レフカメラ D610 が 10月19日に発売されます。D800E にない身軽な 2台目を期待して、D7100 や D600 と比較してみます。さらにニコンの決算資料も見ると、レンズ交換できるカメラの市場が変わったので、仕様もそれを反映しているよね、という話。

佐久間ダム
CC BY-SA 2.0 Kohei Fujii

D800E にない「身軽」さを補う 2台目

Nikon D800E: AF-S NIKKOR 24-70mm f/2.8G ED

今ニコンの一眼レフカメラで持っているのはニコン D800E です。これ自体は画素数、解像力、道具としての使い勝手、どれを取っても大きな不満はない全部入りカメラですが、以下のような不満はあります。

  • 連写速度が遅いためにベストショットを逃す。
  • ファイルサイズが大きい。RAW 画像ファイルが最大 43MB 程度に達してしまい HDD / NAS を買い換えるハメになったり、と後工程の保存や加工は決して楽ではありません。
  • 重い。重量がバッテリー込み 1kg もする。

要は画素数はもっと少なくても良いから、身軽に撮れるフルサイズデジタル一眼レフないですかねと。Nikon J1 は今度は身軽すぎて画質がかなり犠牲になっており、モデル撮影の主力機として使えるレベルではありません。

D600 は D800 / D800E の後に発表されたフルサイズ FX機で、そういった総合的なバランス面が良いわりに約 765g と軽量で安価なため、プロの写真家も含めてけっこう使われています。

D7100 はその後発売された DX 機で、DX でありながら 51点 AF システムを搭載しており、最高 7コマ/秒と連写速度も早く動く被写体に向いています。

と思っていたら D600 の後継機 D610 が出ました。だいたい「10番台」の機種はマイナーチェンジなんですが、この D610 も D600 と仕様はほぼ同じで、サイズや重量はそのままで連写スペックを改良したマイナーチェンジ版、だと思えばよいでしょう。

D610, D600, D7100, D800 / D800E 比較

いかに身軽で、オートフォーカス周りと連写性能が優れているかを比較してみました。

D610 D600 D7100 D800 / D800E
フォーマット FX
フルサイズ
FX
フルサイズ
DX
APS-C
FX
フルサイズ
画素数 2426万画素 2410万画素 2471万画素 3630万画素
連続撮影速度 6コマ/秒 5.5コマ/秒 DX + 14ビットRAW撮影時
5コマ/秒
1.3x + 14ビットRAW撮影時
6コマ/秒
EN-EL15使用時
FX … 4コマ/秒
DX … 5コマ/秒
MB-D12使用時
FX … 4コマ/秒
DX … 6コマ/秒
連写速度
(静音連写モード)
3コマ/秒 連写不可
連続撮影
可能コマ数

RAW ((ロスレス圧縮RAW/14ビット記録)) 撮影時
14コマ 16コマ 6コマ 17コマ
画像処理エンジン EXPEED 3
AF
センサーモジュール
マルチCAM4800 マルチCAM 3500DX マルチCAM 3500FX
AF
フォーカスポイント
39点 51点
AF
クロスタイプセンサー
9点 15点
AF
センサー対応絞り値
f/5.6超~f/8未満は中央33点
f/8は中央7点
f/5.6超~f/8は中央1点 11点はf/8対応
寸法 約141×113×82mm 約135.5×106.5×76mm 約146×123×81.5mm
重量 ((バッテリー、メモリーカード含む)) 850g 約765g 約1000g

しかし本当に、D610 と D600 の違いはほとんどありません。センサーモジュールが同じですので当たり前と言えば、当たり前。

「連続撮影可能コマ数」とは

仁礼的にもっとも重視しているのは、この中で「連続撮影可能コマ数」だったりします。

高速連写モード (CH) にして、シャッターボタンを押すと無限にシャッターが切れるかというと、以外に早く連写はピタッと止まります。連写に画像処理エンジンでの後処理 + メモリカードへの書き込みが追いつかないため、一時的にバッファと呼ばれる領域に画像を貯めておくのですが、貯めておける大きさにも限りがあるからです。

水を貯めておくダムをバッファとすると、大雨が降って放水 (後処理、書き込み) が追いつかないで水位が上がる…の図を想像していただければ良いかと。

「連続撮影速度」と「連続撮影可能コマ数」のバランス

したがって、秒間に何枚撮れるか、という連写枚数 (連続撮影速度) だけでなく、一度に何枚連続して撮れるか、という連続撮影可能コマ数とセットで考える必要があるわけです。

D610 はFXフォーマットで約6コマ/秒、100コマまでの高速連続撮影、とメーカーサイトに景気のいいことを書いていますが、仕様の「記録可能コマ数と連続撮影可能コマ数」を見ると、それは FX フォーマットの場合、JPG ファイルでしかもサイズが M or S だったらの話、であることが分かります。

後で加工することを考えると RAW の 14ビットロスレス圧縮でしか撮影していないので、このカメラにとっては過酷な条件での連続撮影可能コマ数で比較すると、D800 / D800E でもがんばっても 17枚しか撮れないことが分かります。D7100 にいたっては 6枚しかありません。

D610 では 14枚ですが、D600 の 16枚に比べると少なくなっています。

これはおそらく、バッファのサイズ (貯水量) が D600 と同じなのですが、連写速度が上がった (降水量が上がった) ため、連続撮影可能コマ数が下がったのだと考えられます。もしも遅いメモリカードを使ってしまうと、実際の連続撮影コマ数はもっと下がります。

結局、D800 / D800E に比べると、D610 は

  • 画素数 … は 2426万画素とコンパクトになった分、
  • 連写速度 (連続撮影速度) … が D600 で 5.5コマ/秒、D610 で最適化して 6コマに上げられたけれど、
  • 連続撮影可能コマ数 … はバッファサイズはコストの関係で D600 据え置きのため、D800 / D800E ほどは連続して撮れない、やや早く連写が頭打ちになる

と言えます。

レンズ交換式カメラの市場が縮小した分、ミドルレンジは変化がない

D610 だけに限らず、D7100 など最近のラインナップを見ると、画像処理エンジンが EXPEED 3 から久しく進化しておらず、ハイエンド機 D4 からの技術がミドルレンジに下りてきているだけなことや、対するキャノンが EOS 70D のようにデュアルピクセル CMOS AF を搭載して、ライブビュー AF での合焦を高速化しているのに、ニコンの AF にはライバルとして派手な進化がほしいところ。

ニコンの 2014年3月期第1四半期決算説明会資料によると、14年3月期のレンズ交換式デジタルカメラの台数は 655万台と、1年前よりも減速してきています。これはニコンに限らず、業界全体の縮小のようです。スマホに市場を食われているのが大きな要因でしょうか。

対策として、ニコンの方針としては「エントリークラスの一眼レフで新製品へのシフトを行う」となっており、じゃあミドルレンジである D6x0, D800, D4 あたりはあまりイジらずに、D3100 や D5100 の後継機に力を入れてくるだろうとも言われており、実際にそのような噂もあります。

ガジェット好きの物欲ってものは、技術的なイノベーションの凄さに比例するため、iPhone 5 と iPhone 5S とどう違うんですか、みたいな今回の D600 -> D610 へのモデルチェンジ、微妙感は正直いってありますね。